キャッシュレス決済ソリューション

【導入事例】株式会社京王百貨店様

知見を結集させた基幹システムで業務効率の改善と商機拡大を目指す

京王百貨店 38年のレガシーから脱却

百貨店にとって、基幹システムは文字通り経営の基幹を担う。その性能は従業員の業務効率に直結し、ひいては売上げを左右するからだ。京王百貨店は2019年10月1日、基幹システムを刷新。従来の取引先を含めた複数のベンダーによるコンペティションを経て、アイティフォーの「RITS(リッツ)」を採用した。京王百貨店が基幹システムの刷新を決めた経緯、RITSを選んだ理由、稼働から1年余りで見えた成果や課題、そして今後への期待を、太田敦経営企画室・部長、杉山博一同システム開発担当統括マネージャー、常井克清営業政策部営業政策担当統括マネージャーに尋ねた。

~月刊ストアーズレポート2021年1月号 注目企業インタビューより~

月刊消費者信用2019年4月号
<インタビューご出席者> ※肩書きは当時のものです。
  • 太田 敦 氏 :京王百貨店 経営企画室・部長
  • 杉山博一 氏 :京王百貨店 経営企画室 システム開発担当 統括マネージャー
  • 常井克清 氏 :京王百貨店 営業政策部 営業政策担当 統括マネージャー

────RITSを採用した経緯を教えて下さい。

太田 同じ基幹システムを38年に亘り使い続けてきましたが、迫り来る消費増税および軽減税率、改正割賦販売法に対応するためには、コストの面で大きな負担がかかると判明しました。加えて、世の中の流れは速く、「デジタルトランスフォーメーション」(以下、DX)の時代では多くの変化が予測され、百貨店業界も変革が求められます。様々な角度で評価した上で、RITSを選びました。他社には少ない、クレジットカード情報の非保持や非通過を標準でできるのも大きなポイントでした。
アイティフォーは柔軟な対応で、例えば明細データの権利は当社に帰属させてくれました。百貨店のデータは伝票からPOS、商品コードまで多岐に亘ります。提供には苦労もあったでしょうが、今後はデータを様々な角度で分析できますし、自動化や厳選なども可能です。システムのインフラの基礎は整ったと言えます。とはいえ、伝票などの紙からリアルデータへ移行しますから、BIツールなどを使って上手くデータを活用していきたいと考えています。 第二は地域への貢献です。沖縄県は観光資源も豊富で、インバウンドは増えているのですが、キャッシュレス対応が不十分だといわれていました。キャッシュレス化を推進し、地元経済に貢献するのは、地銀としての使命だと考えたのです。

────稼働するまでには苦労もあったのではないでしょうか。

杉山 1つ挙げるなら、法令への対応です。今回は非常に短期間でのシステム刷新でしたが、その中で重視したのは法令の遵守です。軽減税率や改正割賦販売法については、急場を凌ぎ、間に合う・間に合わないで紛糾する会社もあったと聞いています。法令が変わる時は、基幹システムも変えなければならず、開発する技術者の取り合いになりますからね。他の機能よりも先に越えなければならない“ヤマ”でしたが、苦労の末にクリアできました。また、通常は既存の基幹システムの改修を迫られるため大変ですが、RITSは柔軟かつパラメーターの設定のみでの対応が可能でした。

────杉山氏にはシステム関連のキーマンとしての苦労を聞きましたが、現場に適応させるキーマンとしての苦労はいかがでしょうか。

常井 有り体に話すと、2019年の10月1日に全て間に合ったわけではありません。走りながら(=使いながら)、修正を重ねながら今日に至っています。どうしても不具合や認識の齟齬は出てきますからね。
開発段階も含めて最大のポイントは「言葉の意味を一致させる」ことだと思います。「割引」、「値引」「値下」といった言葉は同じに見えるでしょうが、百貨店業界の各社で意味が異なります。当社とRITSで意味が真逆の言葉もありました。RITSは百貨店業界で少なからず使われていますが、それでもこうしたケースは生じます。同じ伝票の名前でも、百貨店によって役割や機能、使う場面が異なります。言わば「文化の違い」を、1つひとつ擦り合わせていかなければなりません。
実際、RITSを採用すると決まってから、アイティフォーの方々から説明してもらい、「(仕様を)どうしたいですか」と質問され、答えていくと、求める機能や認識が違う場面もありました。当社としては、できる限りシステムに合わせ、変えられない部分は歩み寄ってもらいましたが、相互理解を深めていくのが重要です。

ストアーズレポート広告

「やってもらう」と思うのではなく一緒に1つずつ問題を潰していく

────どちらかが一方的に受け入れるだけでは、混乱だけが起きますしね。業務効率を上げるために基幹システムを刷新したものの、なかなか現場になじまないという話は百貨店業界内で頻繁に耳にします。

常井 表現や言葉の意味はできるだけ変えず、現場になじむようにRITSに手を入れました。稼働して終わりではなく、これまでも、これからも、擦り合わせは日々の繰り返しです。「(アイティフォーに)やってもらう」と思うのではなく、自分達にとっての〝当たり前〟や〝普通〟を捨て、伝え、確認し、1つずつ問題を潰していく。〝お任せ〟ではダメなのです。システムを発注する側も汗をかく。全社一丸でより良い形に進化させていきます。
以前の基幹システムは40年近く使ってきましたが、根拠が分からない業務や仕組みなどもありました。長年の運用のなかでそれがうまく継承できずに半ばブラックボックス化されていましたから、刷新は業務や仕組みの棚卸しにもなりました。家で例えると建て直しですから、全体を考え直す、業務をキレイにする好機です。世の中の変化に合わせ、業務は今後もどんどん変わっていくでしょう。基幹システムの入れ替えは、なくすべき業務や変えられない業務を見つけられる端緒になりました。
以前は、紙の帳票を出力して打ち変えたり、データも固定的な抽出しかできなかったりする中で、マンパワーで凌いできましたが、今では正しいデータがすぐに、しかも詳細かつ柔軟に取得できます。必要なデータの可視化が進められたと思います。

────基幹システムのリプレイスから約1年間を経過しましたが、現状はいかがですか。

杉山 2019年の1月にプロジェクトがスタートし、10月にリプレイスを終えましたが、さすがにスケジュールは厳しく、法令遵守を第1フェーズと位置付けました。20年の3月に第2フェーズ、11月に第3フェーズと段階的に完成させました。スケジュールの問題だけでなく、基幹システムを入れ替えると、面前決済への移行を含めてオペレーションが大きく変わります。まずは、それを従業員に習熟させなければなりません。いきなり全てを詰め込むと、パンクしてしまいます。決算などに必要な機能を第2フェーズで、京王百貨店が発行するカードのポイントの見直しに伴うシステムの改修を第3フェーズに盛り込みました。
新型コロナウイルス感染拡大の影響もありましたが、予定通りに進んでおり、利益指向にチャレンジできる準備が整っています。19年10月から今までを振り返ると、「徐々に上手くいくようになってきた」と言えるのではないでしょうか。

常井 従業員への教育の期間が短かったという反省があります。当社は発行するカードの種類が多く、関連して決済の方法やインセンティブの種類も多いにもかかわらず、短期間で3800人以上に新しいPOSの操作方法から教えなければなりませんでした。しかも、オペレーションの方法がガラッと変わり、電話に例えるならば、黒電話を使っていたのがガラケーを通り越してスマホを持つようなレベルです。当社では今回、必要な所に絞って対応しましたが、もし基幹システムの入れ替えを検討しているならば、教育の期間は長い方がいいでしょう。

もはやシステムへの投資は売場の改装と同じくらい大事

────改めて、新しい基幹システムの特長、こだわった点を教えて下さい。

杉山 面前決済用のミニPOSは、操作の始まりから終わりまでを一直線にしました。操作はガイダンスのように進んでいくため、覚えやすいはずです。マニュアルも、実務担当のキーマンの想いを込めた見やすさや分かりやすさを追求したものを担当部署が整えてくれ、連日熱の入った集合教育を実施してくれました。従業員用の情報公開サイトや社内報などを通じて早期定着に努めました。

常井 従業員一人ひとりに「お客様にご迷惑をおかけしない」という責任感や意識が醸成されていて、個々が意欲的に取り組んでいるのはもちろんですが、多くのお取引先がおり、従業員の数も入れ替わりも多いのが百貨店業界であり、教育は大事です。
従前と現行のPOSを比較すると、従前は「何でもできるが、何をしていいか分からない」という状態でした。レジには専任者がおり、仕組みなどは必要に応じてカスタマイズしていました。これまではそれでもよかったかもしれませんが、今後は効率化も求められます。マルチタスク化が加速し、お取引先が派遣する販売員への権限の委譲も進みますから、システムは誰でも使えるようにしなければなりません。ビジネスモデルの変革に伴ってお取引先や取引の形態が増えており、システムの標準化も必要です。
今までシステムへの投資は後回しになりがちでしたが、少数精鋭化していく以上、業務の負担を減らせるようにしなければなりません。これからの企業にはDXも求められます。データの価値は、販売戦略や新たなサービスの発掘に繋がります。もはや、システムへの投資は売場の改装と同じくらい大事です。お客様へのサービスとしても重要で、決済などで「お待たせしない」ことは付加価値にもなります。

────トラブルや課題などはありますか。

杉山 外回り決済で使う回線です。場所によっては電波が悪く、トラブルが起きました。面前決済用のミニPOSを当初の600台から1200台に倍増したこともあり、回線不良はクレジットカードの会社にきちんと請求がいかないなどの大問題に繋がります。1つひとつ点検して改善しています。

ただ、コロナ禍で店舗への客足が落ちた時期に、新たな収益源を確保できました。ミニPOSを持参しての行商です。あるお取引先が新潟県へ行き、その場で売上げを計上できました。その販売員からは「店舗より電波が良くてスムーズでした」と言われましたが、ホテル催事やギフトセンターでも便利です。駅やお取引先のオフィスでも販売できます。オペレーションやセキュリティーの整備は必要ですが、ビジネスのバリエーションが増えました。少なくとも接客のロスは減らせますし、様々なデータも取れます。

常井 注文から伝票の処理まで完了できるミニPOSでの決済は、コロナ禍ではより有効と考えます。1台のパソコンとミニPOS、電波、そして机と椅子さえあれば、中元や歳暮のギフトなども場所の制約がなく販売できます。通販サイトで何でも買える時代ですが、この方法では対面の良さを生かすことができます。お客様とのその場での直接のやり取りが重要なオーダースーツなどは、やはり対面販売に分がありますよね。新たなチャネルの可能性として、今後は店頭以外の販路拡大にトライしていきたいです。

ストアーズレポート広告

「サグラダ・ファミリア」のようにまだまだ進化していく期待感

────システムの入れ替えでは、主に業務効率の改善とコストの削減が期待されます。業務効率の改善や新しいビジネスモデルの確立などについては言及されましたが、運用のコストは削減できましたか。また、今後の活用方法として、何か明確に描いていますか。

杉山 コロナ禍で判断しづらいですが、コストの削減に関しても一定の成果は上がっています。システム側の業務効率は改善されました。これからの時代は「オムニチャネル」ではなく、チャネルを統合させた「ユニファイドコマース」を実現しなければなりません。百貨店が一人ひとりのお客様と向き合うためには、さらにデジタルを活用していくべきだと思います。オンラインとオフラインの情報はシームレスに連携し、個々のお客様に応じた接遇が叶うことが重要と考えています。

常井 営業サイドの意見としては、柔軟性に期待します。世の中の変化のスピードは上がっていきます。それに合わせて色々と対応できるように設計してもらいました。具体的には、お取引先に対しての仕入や支払いの仕組みや、お客様へのインセンティブなどは、柔軟に対応できる形になっています。

太田 これまでのRITSは、郊外や地方に位置する百貨店で使われてきました。ヒトが集い、多様性や話題性に富んだ新宿の店舗では、これまでとは違った新たな何かが得られるはずです。そのフィードバックに期待しています。一方、基幹システムのリプレイスは、当社にとって大きな決断であり、決してきれいごとだけではなく、涙を流すような場面もありました。当社トップの強力なリーダーシップ、現場の揺るぎない「for the Customer 精神」、経理部を中心とする後方部門一丸の踏ん張り、そしてシステム部門の矜持、これら「四位一体」があってこそ今があります。
もはや、アイティフォーはベンダーでなく、パートナーです。京王百貨店は「for the Customer 精神」が不易のDNAですが、従業員にとってシステムを切り替えるのは大変なことでした。ただ、お客様のために理解してくれ、現場を中心に使い方を含めて多々工夫を凝らしてくれていることに感謝しています。
ただ、リプレイスして終わりではありません。アイティフォーには「寄り添うチカラ」があります。RITSはスペインの「サグラダ・ファミリア」のように、これからまだまだ進化していく武器だと思っています。当社とアイティフォーは、ともに苦労し涙も汗も一緒に流してきました。それは今後も変わりません。

(聞き手・編集部 野間智明)

アイティフォー「RITS」 少ない予算で始め、大きく育てられる

ストアーズレポート広告

RITSは、流通業および小売業を知り尽くしたアイティフォーのプロフェッショナルが総力を結集して設計したトータルパッケージソフト。2004年にリリースされ、10年にモジュール化された。個別に導入できるため、サブシステムの切り替えや保守の更新時などに移行しやすい。
例えば中部地方の百貨店では、「RITS ギフトシステム」から導入し、基幹システム全体に拡張した。少ない予算で始め、使いこなし、投資のタイミングを見極めながら、大きく育てられるのが特長だ。
そのRITSは、主に「商品管理システム」、「販売管理システム」、「顧客管理システム」、「クレジットシステム」、「O2O ゲートウェイ」、「前受金管理(友の会)システム」、「ギフトシステム」からなる。
商品管理システムは、単品からクラス、品番まで対応。在庫、売上げ、棚卸しといった小売業の基幹業務をリアルタイムで一元管理する。支払いの条件が異なる取引先からの買掛金も一元管理が可能だ。取引先の条件に応じて、仕入れ明細書、支払い案内書などを指定期日内に自動で発行。正確な期日管理で、ビジネスの信頼性を高める。EDI(電子データ交換)の標準仕様である「流通BMS」にも対応。商品の売れ行きをリアルタイムで取引先に伝達し欠品を防ぐ。
販売管理システムは、店舗会計と財務会計を結ぶ。トランザクション管理では、日々の売上げを現金、金券、クレジットカードといった支払いの方法ごとに取りまとめて会計処理。POS ごと、店舗ごとの処理およびデータを基幹システムに結び付ければ、集計業務も短縮できる。
顧客管理システムは、ポイントカードを作成した顧客が、いつ何を購入したか把握できる機能のほか、売場ごとのヘビーユーザーが誰なのかなどを分析できる機能、友の会の会員らから〝前受け〟した金額などがリアルタイムで分かる機能などを備える。さらにECやスマホアプリ「RI-ppli」と連携することでCRMからDXを推進できる。
クレジットシステムは、ハウスカードや外商売掛の細かい管理が可能。債権を指定して入金管理ができるため、関東のある百貨店では外商売掛残高が5分の1にまで削減され利益に貢献できた。近年は、外商顧客の商品購入状況や支払情報を確認する売掛管理システムとしての利用も多い。
O2O ゲートウェイでは、基幹システムがオフライン化している深夜帯でも、インターネット通販サイトの利用者に対するポイントの付与、ポイントを利用しての商品の購入が可能。それらのデータは、基幹システムがオンライン化した際に統合される。
2020年末時点で、百貨店基幹システムとして8社、モジュール単位で3社、で稼働しており2021年3月にさらに基幹システム1社が加わる予定だ。

※当記事は、株式会社ストアーズ社の許諾を得て転載しています。
掲載日:2020年12月28日