【コラム】カスタマーハラスメント04
現場で即使える!コンタクトセンターにおけるカスタマーハラスメント対応:具体的な切り返しと事後のケア
顧客対応の最前線であるコンタクトセンターにとって、カスタマーハラスメント(カスハラ)は従業員の安全を脅かす深刻な問題です。本コラムでは、オペレーターがカスタマーハラスメントに遭遇した際に毅然と対応するための具体的なセリフ例と受け答え、そしてその後のケアについて、実践的に解説します。
また、これらの現場対応を確実にサポートするCTI・通話録音システムなどのIT活用こそが、企業が取り組むべきカスタマーハラスメント対策の鍵となります。本コラムをシステム導入とマニュアル作成にお役立てください。

はじめに:なぜ現場オペレーターの初期対応が鍵を握るのか
コンタクトセンターにおけるカスタマーハラスメントは、単にオペレーターの精神的な負担となるだけでなく、離職率の悪化や、企業の信頼性低下にもつながりかねない深刻な問題です。企業が組織的・技術的な対策を講じることはもちろん重要ですが、日々の業務で直接お客様と接するオペレーター自身が、ハラスメントの初期段階で毅然と対応する方法を身につけることが不可欠です。
適切な初期対応は、状況のエスカレートを防ぎ、その後の組織的な対策(システムによる記録や上長へのエスカレーションを含む)を効果的に機能させるための第一歩となります。
ステップ1:ハラスメントの可能性を認識する
まず、コンタクトセンターのオペレーターは、どのような言動がカスタマーハラスメントに該当するのかを改めて認識することが重要です。判断の基準となるのは、お客様の要求が社会通念上の常識の範囲を超えているかどうかです。
具体的には、暴言、脅迫、人格否定、不当な要求に加え、長時間にわたる拘束的な言動(長時間の電話)、性的な嫌がらせなどが該当します。重要なのは、初期の段階で「おかしい」と感じる違和感を絶対に見逃さないことです。こうした違和感は、カスタマーハラスメント事例への発展を示すサインであり、その時点で毅然とした態度をとり、組織的な対策(上長への報告、システムへの記録など)に移行することが不可欠です。
ステップ2:初期対応 - まず何をすべきか
カスタマーハラスメントに該当する可能性のある言動があった場合、状況のエスカレートを防ぐために以下の対応に努めましょう。これらの初動は、後の組織的対策や法的な対応につながる重要なステップです。
冷静に相手の発言を聞き取る
感情的な反応は避け、オペレーター自身が状況を冷静に把握することに努めます。
相手の主張を理解しようと努める
感情的な応答をするのではなく、あくまで正当な苦情とハラスメントの線引きのため、相手が何を求めているのかを正確に把握します。
記録と証拠保全を徹底する
可能な限り、発言の内容や日時、状況などを詳細に記録に残します。
コンタクトセンターにおいては、初期の段階でシステムを活用し自動で音声録音することで、すべてのやり取りを客観的な証拠として保全することがカスタマーハラスメント対策の最も有効な手段となります。
また、以下の具体的なセリフを用いて注意喚起を行うことも、毅然とした対応として有効です。
注意喚起の例:「お客様、ただいまのお言葉は、当社の定めるハラスメント行為に該当する可能性がございます。恐れ入りますが、そのような発言はお控えいただけますようお願い申し上げます。」
ステップ3:毅然とした具体的な切り返しセリフ
コンタクトセンターにおけるカスタマーハラスメント事例(暴言、長時間拘束など)に対し、オペレーターが毅然と対応するため、事前に具体的なセリフを準備することが対策として重要です。
このステップでは、状況別の受け答え例をご紹介します。これらの切り返しセリフは、システムで記録された音声証拠に基づいた組織的な対応の基盤となり、ハラスメントのエスカレートを防ぐ上で決定的な役割を果たします。
商品に不備があった場合
お客様
「おい!そっちで売ってる商品は全部欠陥品なのか!こっちは高い金払って買ってるんだぞ!すぐに新品と交換しろ!誠意を見せろ!責任者を出せ!」
↓
オペレーター(初期対応)
「このたびはご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。該当の商品について状況を確認させていただき、必要に応じて交換など適切な対応をさせていただきます」
↓
(「全部欠陥品」「誠意を見せろ」「責任者を出せ」などが続く場合)
オペレーター(次のステップ)
「大変恐縮ですが、的確な解決策をご提案させていただくためにも、まずは何が起きていらっしゃるのか、事実に基づいた情報をお伺いできますでしょうか。ご協力をお願いいたします」
サービスに不満があった場合
お客様
「あんたらのサービスは本当に使えないな!二度と利用しない!金返せ!こんな欠陥サービスを提供する会社は潰れるべきだ!いい加減にしろよ!」
↓
オペレーター(初期対応)
「ご不便をおかけしてしまい、大変申し訳ございません。お客様のご指摘については真摯に受け止め、社内で共有・改善に努めてまいります」
↓
(「金を返せ」「潰れるべきだ」など感情的な言動が続く場合)
オペレーター(次のステップ)
「ご期待に沿えず、大変申し訳ございません。お客様が具体的にどのような点でお困りなのか、お伺いしてもよろしいでしょうか。今後の改善のためにも、詳細をお聞かせいただけたらと存じます」
手続きが遅延した場合
お客様
「いつまで待たせるつもりですか!そちらの都合で私の時間を無駄にしないでください!一体何をしているんですか!今日中に必ず手続きを完了させてください!」
↓
オペレーター(初期対応)
「手続きに時間がかかっており、ご迷惑をおかけし申し訳ございません。現在、状況を確認しており、できる限り早急に対応を進めております。今しばらくお待ちいただけますでしょうか。〇時までには改めて状況をご連絡いたします」
↓
(それでも感情的な圧が続く場合)
オペレーター(次のステップ)
「ご不安な気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません。現状を打破するためにも、お客様のご要望を改めてお伺いしてもよろしいでしょうか。その上で、弊社でできる最善の対応を検討させていただけたらと存じます」
担当者の対応が分かりにくかった場合
お客様
「さっきの担当者は本当に頭が悪いんじゃないか!説明が全然なってない!あんたの教育はどうなってるんだ!担当者を変えろ!謝罪させろ!二度とあんなやつに対応させるな!」
↓
オペレーター(初期対応)
「ご案内に不備があったようで、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。内容については確認のうえ、必要があれば担当者に指導を行います」
↓
(侮辱的な発言が続く場合)
オペレーター(次のステップ)
「恐れ入りますが、弊社ではお客様への円滑なご案内と適切な問題解決のため、個人への侮辱的なご発言はご遠慮いただいております。お客様のお困り事については、真摯にお伺いし、解決に努めさせていただきますので、ご協力をお願いいたします」
システムエラーが起きた場合
お客様
「御社のシステムは一体どうなっているんですか!何度も試しているのに全く使えない!こんな杜撰なシステムで客を困らせるなんて信じられません!早急に改善してください!」
↓
オペレーター(初期対応)
「ご不便をおかけしてしまい、大変申し訳ございません。現在のシステムのご利用状況について、詳しくお伺いし、状況の確認と原因の特定をさせていただきます」
↓
(強い非難や断定的な表現が続く場合)
オペレーター(次のステップ)
「恐れ入りますが、的確な対応を行うために、具体的なご利用環境や状況をお聞かせいただけますでしょうか。確認のうえ、社内にて改善に向けた対応を検討いたします」
↓
(「全部欠陥品」「誠意を見せろ」「責任者を出せ」などが続く場合)
オペレーター(次のステップ)
「お客様のご不満はもっともでございます。正確な原因究明と改善のために、恐れ入りますが、いま一度、具体的な状況をお聞かせいただけませんでしょうか」
ステップ4:エスカレーション - カスタマーハラスメント対策の最終防衛ライン
具体的な切り返しセリフを用いても、お客様の言動が改善されない、または暴言や脅迫などがエスカレートするカスタマーハラスメント事例に発展した場合は、オペレーター個人の対応には限界があります。無理に対応せず、速やかに上長や担当部署にエスカレーションすることが、従業員保護と組織的対策の観点から極めて重要です。
エスカレーションの判断基準
コンタクトセンターにおけるエスカレーションは、以下のいずれかに該当する場合、躊躇なく行われるべきです。
- オペレーター自身が身体的・精神的な恐怖を感じた場合
- 業務の継続が困難になった場合、または企業ルールに違反する過剰な要求があった場合
オペレーターだけで判断が難しい場合でも、AIやシステムの活用により、攻撃的な発言を検知して自動でアラートを出すシステムや、SV(スーパーバイザー)がリアルタイムで音声を確認できる仕組みもあります。積極的に活用してみてください。
報告・相談する際のポイント
エスカレーションの際は、後の調査や対応に活かすため、以下の情報を客観的な証拠として具体的に上長へ伝達しましょう(通話録音システムのログを参照):
- いつ
- 誰が
- どのような言動を行ったのか
以上を具体的に伝えるようにしましょう。
企業によっては、エスカレーションの手順が定められている場合があるので、事前に確認しておくことが大切です。
オペレーター → SV → 管理職 → 法務・顧客対応専門チーム
ステップ5:事後のメンタルヘルスケアと心身の回復
カスタマーハラスメント対応は、コンタクトセンターのオペレーターにとって極めて大きな精神的負担となる事例が多数報告されています。具体的なセリフやシステム連携による毅然とした対応だけでなく、事後のケアこそが、従業員の早期回復と安定的な業務継続のための対策として不可欠です。企業は、オペレーターが安心して心身を休養できるようなサポート体制を整えること、オペレーターは自分自身の心と体のケアを意識することが大切です。
企業がすべきこと(組織的・制度的カスタマーハラスメント対策)
- 相談窓口の設置やカウンセリングサービスの提供
- 休職制度など、心身の回復に特化した制度の整備
- カスタマーハラスメントで得られた証拠に基づき、悪質な場合は法的措置も視野に入れた体制づくり
- 上長による定期的な1on1の実施や、現場の心理的安全性の確保
オペレーターがすべきこと(セルフケア)
- 一人で抱え込まず、同僚や上司、または専門窓口に相談する
- 十分な休息を取り、心と体の状態を意識的に整える

まとめ:システム活用による組織的対応が鍵
カスタマーハラスメントは、オペレーターの尊厳を脅かし、コンタクトセンターの運営に深刻な影響を及ぼす、決して許されない行為です。本コラムで解説した具体的なセリフや事例別の対応をオペレーター一人ひとりが身につけるとともに、企業全体としてハラスメントに毅然とした態度で臨むことが重要です。
マニュアルの作成や教育体制の整備には多大な時間と労力がかかりますが、この課題を迅速かつ確実に解決するためには、システムをうまく活用することがベストなソリューションです。通話録音、AI検知、エスカレーションといったシステム機能を活用し、証拠保全と迅速な対応を実現することこそが、持続可能なカスタマーハラスメント対策の鍵となります。
本記事が、コンタクトセンターで働く皆様が安心して業務に取り組むための、システムを活用した具体的な対策の一助となれば幸いです。