【コラム】カスタマーハラスメント03
コンタクトセンター従業員を守るために、今企業ができることは?

お客様からの心ない言葉に、ただ耐えるしかない──そんなオペレーターの苦悩を、あなたの会社ではどう受け止めていますか?
カスタマーハラスメントは、もはや個人の努力で乗り越えられる問題ではありません。
現場のオペレーターを守るために、コンタクトセンター事業者はどのような取り組みを行うと良いのでしょうか。
前々回のコラムでは、東京都が定めた「カスタマー・ハラスメント防止条例」を紹介しました。
実はこの条例、従業員を守るのに有効とされる、事業者の具体的な行動にも踏み込んでいます。
また、厚生労働省も「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表し、企業がどのように対応すると良いかの指針を示しています。
本記事では、コンタクトセンター事業者の皆様がカスタマーハラスメントにどのように向き合い、どのような対策を講じると良いかについて、わかりやすく解説します。
「お客様からの迷惑行為」に国はどう向き合っているのか
厚生労働省の指針から読み取れる対策のヒント
厚生労働省が策定した指針のひとつに、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)があります。
この指針は、いわゆるパワーハラスメントの防止に関する基本的な考え方と、事業主が講ずべき措置を示したものです。
注目すべきは、顧客を含む社外関係者からのハラスメントや迷惑行為についても、事業主が適切に対応することが望ましいと明記されている点です。
事業主は、パワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、
例えば、⑴及び⑵の取組を行うことが望ましい。
また、⑶のような取組を行うことも、その雇用する労働者が被害を受けることを防止する上で有効と考えられる。
取組内容 | 取組の具体例 |
---|---|
⑴相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 | イ 相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを労働者に周知すること。 ロ イの相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。 |
⑵被害者への配慮のための取組 | 事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組を行うこと。 |
⑶他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組 | 事業主が、こうした行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことも有効と考えられる。 |
「顧客等からの著しい迷惑行為」というのが、まさにカスタマーハラスメントを指しています。
カスタマーハラスメント対策のための実践的チェックリスト
厚生労働省が作成している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」には、上記を踏まえて事業者が実践すべき具体的な対応策をチェックリストとしてまとめたものがあります。
これを参考にすることで、自社の現状を見直し、必要な対策を具体的に検討することができます。
たとえば、体制の整備やマニュアルの作成という取り組みにも、以下のような種類があると記載されています。
- カスタマーハラスメント対策チェックシートの一部抜粋(出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)
③必要な体制の整備、対応マニュアル等の作成 |
---|
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
「③必要な体制の整備、対応マニュアル等の作成」の項目では、必要な体制の整備として、まず社内の対応を担う部署や委員会を設置することが推奨されています。これは、対策の検討やマニュアルの 作成だけでなく、従業員への教育や周知までを一貫して担う体制として重要な役割を果たします。
また、カスタマーハラスメントが実際に発生した際には、いかに迅速かつ適切に対応できるかが重要です。その点で、同マニュアルに記載されている「保安体制の整備」や「最寄りの警察情報の把握」などは、現場の安全確保という観点から非常に実用的だと考えます。こうした項目は、企業が独自に想定するのは難しい場合もあり、国のマニュアルに基づくチェックリストがとても参考になります。
カスタマーハラスメント対策企業マニュアルには、どの企業でも共通して取り組むことができる具体的な対応が網羅されています。自社の現状を確認しながら、こうした公的なガイドラインを積極的に活用することで、実効性の高いカスタマーハラスメント対策の構築につなげることができるでしょう。
東京都が示す、カスタマーハラスメント対策への関わり方
東京都では「カスタマー・ハラスメント防止条例」の第14条において、事業者に推奨される具体的な措置が明記されています。 また、東京都が公開しているスライド版の資料では、1つ1つの条例について丁寧な解説がついています。 例えば、第14条にある取り組みとしての具体例として、13個の対応とそのポイントが記載されています。その内容を踏まえ、大きく4つに分類し、取り組むべき手順を整理してみました。
(事業者による措置等)
第14条 事業者は、顧客等からのカスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた
就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
2 就業者は、事業者が前項に規定するカスタマー・ハラスメント防止のための手引を作成したときは、当該手引を遵守するよう努めなければならない。
概要 | 事業者による措置 |
---|---|
基本指針の明確化 | ①カスタマー・ハラスメント対策の基本方針・基本姿勢の明確化と周知 ②カスタマー・ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知 ⑬カスタマー・ハラスメントの再発防止に向けた取組 |
土台の整備 | ③相談窓口の設置 ④適切な相談対応の実施 ⑦現場での初期対応の方法や手順の作成 ⑧内部手続(報告・相談、指示・助言)の方法や手順の作成 |
従業員への周知 | ⑤相談者のプライバシー保護に必要な措置を講じて就業者に周知 ⑥相談を理由とした不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め周知 ⑫就業者への教育・研修等 |
就業者への配慮 | ⑨事実関係の正確な確認と事案への対応 ⑩就業者の安全の確保 ⑪就業者の精神面及び身体面への配慮 |
カスタマーハラスメントへの取り組みを進めるには、まず「何がカスタマーハラスメントに該当するのか」を企業として明確に定義することが重要です。その定義をもとに、どのような対策を講じていくのか、全体方針を整理していく必要があります。被害が発生した際の対応に限らず、加害者を生まないための予防策や、再発を防止するための取り組みも含んだ「基本指針」を策定することが、対策の出発点となると考えます。
基本指針が定まったあとは、それに基づく土台の整備が求められます。発生時の対応を社内で共有するための手段を考え、準備を行います。また、相談窓口の設置や、現場で迅速にエスカレーションできる仕組みを整えることも、有効な基盤づくりと言えるでしょう。
このように準備が整った段階で、従業員への周知を徹底することが有効だと考えます。自社におけるカスタマーハラスメントの定義や、実際に発生した場合の対応方法を、マニュアルや研修で分かりやすく伝えることで、現場での判断や対応がスムーズになります。
そして、どの段階においても忘れてはならないのが、被害にあった従業員への配慮です。明確な指針があることで、従業員が安心してエスカレーションできる環境を整えることができます。また、相談窓口の整備によって、発生後の精神的なサポートにもつなげることができます。
従業員一人ひとりを守る体制が整うことは、結果として職場全体の安心感や業務の活性化にもつながります。企業として、継続的に体制を見直し、アップデートしていくのが良いでしょう。
まとめ:コンタクトセンターにおけるカスタマーハラスメントに対する対応を
次のステップへ進めるために

“お客様第一”の名のもとに、現場の声が置き去りにされていないでしょうか。
本当にお客様のためを思うなら、まずはコンタクトセンターに従事するオペレーターが笑顔で働ける環境を整えることが大切です。
働く人を守ることは、結果として企業への信頼を育てることにもつながります。
今回は、厚生労働省と東京都を事例としてご紹介しましたが、他にも参考になる取り組みは数多く存在します。
今こそ、オペレーターが安心して働ける職場づくりに向けて、一歩を踏み出してみませんか?