それはクレーム?カスタマーハラスメント?コンタクトセンターの現場から
「お客様は神様」という言葉に縛られ、コンタクトセンターの現場では、正当な苦情(クレーム)と行き過ぎた要求(カスタマーハラスメント=カスハラ)の板ばさみになるケースが少なくありません。では、クレームとカスタマーハラスメントの境界線はどこにあるのでしょうか?本記事では具体的な事例を通じて、それらの本質的な違いと、従業員が安心して顧客対応を行うために必要な判断基準を探ります。

クレーム・苦情とは:建設的なサービス改善の機会
クレームや苦情とは、顧客が商品やサービスに対し、正当な理由に基づき不満や要望を伝えることです。冷静かつ社会通念上妥当な範囲内の要求であり、企業にとって製品・サービスの品質改善の貴重なきっかけとなります。
カスタマーハラスメントとは:立場を悪用した不当な攻撃
カスタマーハラスメントは、顧客の立場を悪用し、従業員に対して行う過剰な要求、暴言、威圧的な行為を指します。正当なクレームとは異なり、サービス改善とは一切関係のない要求や、人格否定、身体的・精神的な攻撃を伴うことが特徴です。特に、その要求内容や手段が社会通念上相当な範囲を逸脱している場合に該当します。
具体例:クレームとカスタマーハラスメント、同じ内容でも言い方次第
同じ内容でも、口調や要求内容などによってはクレームにもカスタマーハラスメントになり得ます。具体的なシチュエーションで考えてみましょう。

商品に不備があった場合
「ネットで買った〇〇、届いて開けてみたら傷がついてたんですけど……。これってどういう検品してるんですか?さすがにちょっと残念でした。交換とか対応してもらえます?」
「おい!そっちで売ってる商品は全部欠陥品なのか!こっちは高い金払って買ってるんだぞ!すぐに新品と交換しろ!誠意を見せろ!責任者を出せ!」
サービスに不満があった場合
「この前利用した〇〇のサービスなんですけど、正直言って分かりづらかったです。特に〇〇の説明、あれじゃ初めての人は困りますよ。ちゃんと改善してもらわないと、ちょっと考えますね」
「あんたらのサービスは本当に使えないな!二度と利用しない!金返せ!こんな欠陥サービスを提供する会社は潰れるべきだ!いい加減にしろよ!」
手続きが遅延した場合
「〇〇の手続き、いつまでかかるんでしょうか?こっちはもう〇日も待ってるんですけど…。正直、遅すぎると思います。ちゃんと進んでるんですか?」
「いつまで待たせるつもりですか!そちらの都合で私の時間を無駄にしないでください!一体何をしているんですか!今日中に必ず手続きを完了させてください!」
担当者の対応が分かりにくかった場合
「さっき電話対応してくれた方の説明が、正直ちょっと分かりにくくて…。こちらも何度も聞き直すのはしんどいので、もう少し分かりやすくしてもらえませんか?」
「さっきの担当者は本当に頭が悪いんじゃないか!説明が全然なってない!あんたの教育はどうなってるんだ!担当者を変えろ!謝罪させろ!二度とあんなやつに対応させるな!」
システムエラーが起きた場合
「ウェブサイトで〇〇しようとしたんですけど、エラーが出て全然進めません。何回も試してもダメで、かなり時間を無駄にしました。早く復旧してもらえませんか?」
「御社のシステムは一体どうなっているんですか!何度も試しているのに全く使えない!こんな杜撰なシステムで客を困らせるなんて信じられません!早急に改善してください!」
クレームとカスタマーハラスメントの違いを見極めるポイント
| 観点 | クレーム | カスタマーハラスメント |
|---|---|---|
| 要求内容の妥当性 | 妥当(商品の交換・説明の改善など) | 不当(謝罪の強要、金銭要求、暴言など) |
| 言動の態度 | 冷静・理性的 | 高圧的・暴力的・感情的 |
| 目的 | 問題の解決 | 感情の発散・威圧・支配 |
| 対応の方向性 | 丁寧に対応し改善につなげる | 明確に線引きし、必要に応じて法的対応も視野に |
正当なクレームは、丁寧に対応することで信頼回復につながる貴重な機会です。一方で、カスタマーハラスメントは従業員のメンタルに深い傷を負わせ、離職や業務効率の低下、企業イメージの毀損という深刻な影響をもたらします。特に人格否定や脅迫に該当する場合、企業は社会的な責任として毅然と対応し、従業員を守る必要があります。
実際、厚生労働省の調査では、約7割の接客業従事者がカスタマーハラスメントを経験しているという結果が出ており(出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)、社会的・組織的な対策の必要性が高まっています。
特に、顔の見えないやり取りが中心となるコンタクトセンターでは、過剰な要求や暴言が深刻化しやすい傾向にあります。企業側は音声やログの記録を組織的に保全し、客観的な証拠として活用できる体制の整備が急務です。
まとめ:カスタマーハラスメント対策と顧客満足の両立こそ企業の責任
クレームとカスタマーハラスメントは一見似ているようで、その本質は建設的な意見と不当な攻撃という点で大きく異なります。クレームはサービス向上のための建設的な声として誠実に対応すべきですが、カスタマーハラスメントには毅然とした態度で臨むことが不可欠です。
特に顧客との接点であるコンタクトセンターをはじめとするフロント対応の現場では、このクレームとカスタマーハラスメントの明確な線引きこそが、従業員の尊厳を守るための最初の一歩です。カスタマーハラスメントによる現場の疲弊を防ぎ、顧客満足と従業員の安心を両立させるための仕組み作りに直結します。
すべての関係者が健やかに関われる環境を企業が整えることこそが、企業価値を高め、持続可能な顧客対応を実現するための最重要課題と言えるでしょう。