【解説】攻撃者の真の標的「Active Directory」。ブラックボックス化した内部リスクと「IASM(アイデンティティアタックサーフェス管理)」

<サマリー>

✓ EASMで外壁を守っても、巧妙な侵入を完全に防ぐことは不可能。侵入した攻撃者が次に狙うのは、社内の全権限を握る「Active Directory(AD)」

✓ 長年の運用で複雑化したADには、退職者のアカウントや過剰な権限といった「アイデンティティの死角」が蓄積し、特権ID奪取の温床となる

✓ 権限やIDに潜むリスクを可視化し、特権IDに至る攻撃ルートを事前に遮断する「IASM(アイデンティティアタックサーフェス管理)」の重要性を解説

企業、セキュリティ、AIのイメージ

前回のコラムでは、攻撃者から自社がどう見えているかを把握する「EASM(外部アタックサーフェス管理)」の重要性をお伝えしました。

「EASM」で外壁を固めても、巧妙なサイバー攻撃による内部への侵入を100%防ぐことは困難です。では、外壁を突破した攻撃者は次に何を狙うのでしょうか。

最大の標的は、社内の全権限を握る「Active Directory(AD)」です。長年の運用でブラックボックス化したADには、特権IDを奪うための抜け道が無数に潜んでいます。

本コラムでは、侵入されることを前提にアイデンティティ(ID・権限)のリスクを可視化する「IASM(アイデンティティアタックサーフェス管理)」に焦点を当て、特権IDを守り抜く次世代の防衛策を解説します。

外壁を突破した後、攻撃者は内部で何をするのか?

EPPとEDRの違い

1台の端末への侵入を足がかりに、内部ネットワークを密かに探索して権限を拡大していく「ラテラルムーブメント(横展開)」。情シス担当者の皆様には改めて語るまでもありませんが、大規模なランサムウェア被害による全社システム停止の裏には、必ずと言っていいほどこのプロセスが存在します。

境界防御で外からの攻撃を監視していても、一度内部に侵入し、正規ユーザーを装う動きを検知するのは非常に困難です。攻撃者は、単なるシステムの脆弱性だけでなく、管理の甘いアカウントやパスワードの使い回しといった「アイデンティティ(ID)の隙」を次々と突いて、城の奥深くへと進軍していきます。

最大の標的は「Active Directory」。特権IDが奪われる恐怖

アラート疲れに苦しむ従業員

ラテラルムーブメントを繰り返す攻撃者の最終目的地は明確です。それは、企業ネットワークの心臓部であり、すべてのユーザーとシステムの認証・アクセス権を管理する「Active Directory(AD)」を掌握することです。

ADのドメイン管理者権限(特権ID)を奪取されるということは、企業システムの「マスターキー」を泥棒に渡してしまうことと同義です。攻撃者はセキュリティソフトを無効化し、バックアップデータを破壊し、すべてのサーバーに一斉にランサムウェアを展開することが可能になります。

長年の運用で「ブラックボックス化」するADのジレンマ

AIによるサポート

特権ID奪取を防ぐにはADを堅牢に保つ必要がありますが、現場の情報システム部門は深刻なジレンマを抱えています。

多くの企業において、ADは数年、あるいは十数年以上にわたって運用され続けています。その間、担当者の引き継ぎが繰り返され、以下のような「アイデンティティに起因する脆弱性」が蓄積し、ブラックボックス化しています。

  • 退職者や異動者のアカウントが有効なまま放置されている
  • 利便性を優先し、不要なユーザーにまで過剰な管理者権限が付与されている
  • 古い業務システムを動かすためだけに、脆弱な認証プロトコル(NTLMv1など)が残されている

現場の担当者はこうしたリスクに薄々気づいていても、「下手に設定を変更して、重要な業務システムが動かなくなったらどうしよう」という恐怖から、根本的な整理に踏み切れません。この「触らぬ神に祟りなし」という現状維持の姿勢こそが、攻撃者にとって最大の死角(アタックサーフェス)となっているのです。

内なる死角をあぶり出す「IASM」とは

EPPからAI型EDRへ

そこで現在、ゼロトラスト時代の新たな防衛策として急速に注目を集めているのが、「IASM(Identity Attack Surface Management:アイデンティティアタックサーフェス管理)」です。

IASMとは、社内に存在するアカウント、権限設定、ADの構成などに潜む「アイデンティティに起因するリスク」を継続的にスキャンし、可視化するプロセスです。

近年のサイバー攻撃において、ファイアウォールなどの「ネットワークの境界」はもはや防御の要ではありません。正規ユーザーのIDや権限こそが新たな境界線となっています。IASMは、複雑に絡み合ったADの権限設定を紐解き、攻撃者がラテラルムーブメントに利用できそうな「アイデンティティの抜け道」を、脅威が顕在化する前に特定します。

攻撃ルートを先回りして断つ「IASMツール」の真価

AIによるサポート

しかし、数年がかりで複雑に絡み合ったADの権限設定や内部ネットワークの脆弱性を、手作業やExcelで洗い出すことは不可能です。そこで力を発揮するのが、権限リスクの可視化に特化した専門の「IASMツール」の活用です。

最新のIASMソリューションの最大の強みは、単にADの設定不備をリスト化するだけではありません。「その権限の隙を放置すると、攻撃者がどのように特権IDまで辿り着くか」という攻撃パス(経路)を視覚的にマッピングできる点にあります。

システムを止めるリスクを恐れてADの整理に踏み切れない情報システム担当者にとって、何万件もの脆弱性アラートはノイズにしかなりません。必要なのは、「すべてを修正する必要はありません。この1つの過剰な権限設定を修正するだけで、特権IDに至る攻撃の連鎖を確実に断ち切れます」という、実行可能で安全な優先順位の提示です。

このようなテクノロジーを活用することで、既存の業務システムへの影響を最小限に抑えながら、内部ネットワークの堅牢性を飛躍的に高めることが可能になります。

まとめ:アイデンティティこそが新たな境界線。次世代の多層防御へ

AIによるサポート

インターネットに公開されたIT資産の隙をなくす「EASM(外部アタックサーフェス管理)」と、内部に侵入された後のラテラルムーブメントをアイデンティティ保護によって封じ込める「IASM(アイデンティティアタックサーフェス管理)」。

攻撃の入り口となる「外部のリスク」を継続的に監視しつつ、万が一侵入を許した場合でも致命傷(特権IDの奪取)を防ぐ「アイデンティティのリスク」を管理する。この2つのアプローチを組み合わせることこそが、ランサムウェアや標的型攻撃が猛威を振るう現代において、企業が取るべき最も現実的かつ強力な多層防御の姿です。

ブラックボックス化したActive Directoryの運用に不安を感じているのであれば、まずは自社の「アイデンティティ」にどのような死角が潜んでいるのか、その本当のリスクを可視化する第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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<この記事の監修者>
株式会社アイティフォー 通信システム事業部 セキュリティソリューション担当
通信キャリア、コンタクトセンター、ネットワーク、セキュリティ基盤などの領域において、企業・自治体・地域金融機関向けのシステム提案・導入支援を行っています。

公開日:2026年10月21日
最終更新日:2026年10月21日